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零れ落ちた感情を突き放して 慌てて引き寄せたって、もう遅い
Posted by - 2025.07.12,Sat
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Posted by - - 2011.06.23,Thu
大分、大分前にケータイ日記の方に投下したヤツ。
ネロとロッソの初めまして、の話。
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(嫌な夢を見た。)










白い箱に青いリボン。
大きくはないけれど、10歳の誕生日を迎えた少年にとっては箱の大きさなんてちっとも関係無くて、父親の手から受け取ると嬉しそうに、嬉しそうに笑みを浮かべて父親を見上げた。


「……開けてもいい?」


目を輝かせる少年に、父親は笑みを浮かべて頷く。
少年が嬉々として青いリボンをしゅるり、解いて箱を開ければ柔らかそうな布に包まれるようにして丸い何かが一つ入っていた。
それを取り出し布を取ると、包まれていた球体が露わになる。
上半分が赤く、下半分が白く、その中心にはスイッチのようなものが一つ。
少年の手には少し大きく感じられたその球体は、モンスターボールだった。


「大事に育てなさい。……ほら、ボールスイッチを押してみるといい」


驚いたような、嬉しそうな表情でボールを見つめていた少年に父親は中心のスイッチを指し示す。
少年はそのスイッチを押すとボールが開くことはテレビで何度も観たことがあったし、自分もポケモントレーナーになりたいと父親に夢を語ったこともあった。

その夢が今、叶おうとしている。

スイッチを押すと同時に、ポカンと音を立てて開いたボールから閃光が放たれた。
その閃光と共にボールから現れたのはオレンジ色のトカゲのようなポケモンで、尾の先には小さくも明るい炎を灯している。


「あ、……」

「……だーれだ?」

「……ヒト、カゲ」

「正解!」


父親の手が少年の頭を撫でた。
現在、発見されているポケモンの数は定かではないが、少なくとも500種を超えるという話だ。
少年はその全てのポケモンを知っているワケではなかったが、このポケモンは、ヒトカゲは知っていた。
尾に灯る炎がヒトカゲの命の灯火であることも、ヒトカゲが進化した先の姿も。
撫でられて嬉しそうにしながら、少年はきょろきょろと辺りを見回し不思議そうにしているヒトカゲに、目線を合わせようとしゃがみ込んだ。
少年と目が合ったヒトカゲが、ぱちぱちと瞬く。


「そのヒトカゲは、今朝タマゴから孵ったばかりなんだ」

「……今日の、朝?」

「そうとも」


しゃがみ込んで父親を見上げた少年に、父親は穏やかに微笑んで頷きを一つ返した。
このヒトカゲが孵ったのは、今朝だったそうだ。
そして、今日は。


「……同じ……誕生日……」

「誕生日おめでとう、ふたりとも」


自分とヒトカゲとの共通点に気付いた少年の目が、驚いたように丸くなる。
その表情が父親の声によって嬉しさのあまり紅潮した。
弟ができたような、そんな感じがする。
……少年の母親は、少年が物心つき始めるより前に亡くなっている。
自分には母親が居ないことを少年が嘆くことはなかったが、少年がリビングに飾ってある写真立てに映る女性を見て父親にこの人は誰?と訊ねたこともなかった。
訊けずにいた、と言っても間違ってはいないだろう。
父親が写真に映る女性に対して向ける眼差し、表情のどちらもが少年の知らない、見たことのないものだったから。
望んでも叶わないと分かっていた、その少年が密かに憧れていた"兄弟"という存在に、ヒトカゲはとても近いもののように感じられたのだ。


「……父さん、」

「何だい?」

「あの、……ありがとう、父さん」

「いいさ、お礼なんか」


誕生日だろう?と笑う父親につられるように少年がはにかんで、ヒトカゲの頭にそっと手を伸ばした。
ヒトカゲは相変わらず不思議そうに少年の手を見つめて、小首を傾ぐ。
その手が自分の頭を撫でれば、気持ち良さそうに目を細めて小さく鳴いて返した。


「そうだ、名前を付けてあげるといい」

「……僕が?」

「パートナーなんだから、そうだろう?」

「…………名前……」


ヒトカゲに、人の会話がどこまで理解出来ているのかは分からない。
撫でる手を止めて父親を見上げた少年が、その手を引っ込める。
後ろ頭を掻きながら、難しい(けれど困ったような)顔で思案する少年の顔と父親をヒトカゲが交互に見つめ、ふるりと尻尾を振った。
明るく赤い炎がゆらり、揺れる。
その灯りを追った少年の目が丸くなり、


「……ロッソ、」


呟くように声にした、その色は。


「……ロッソか」


良い名前だと微笑んだ父親に続くように、色を示すその名を口にした少年に対してヒトカゲが嬉しそうに一鳴きした。
ヒトカゲの笑顔に少年は驚いたように目を丸くしてから、ぱあっと顔を明るませる。


「今日からロッソは、ともだちだな」

「……うん」


少年は立ち上がると同時にヒトカゲを両手で抱き上げ、その重さによろけそうになったのを堪えながら抱き締めた。


「ロッソ、」


抱き締めた暖かい小さな体、少年は初めての“ともだち”の名を口にして、噛み締める。

何度も何度も、


何度も、










薄ら開けた視界に映ったのは、照明の落ちた暗い部屋の天井だった。
……滲んで見えるのは何故だろうか。


「―――― …………、……」


眦が湿っているのは何故だろうか。

喉が、震えるのは、
 
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